声優としてデビューしたものの、ほとんど仕事がなくなっていた8年くらい前。
お給料制で家も用意されていて、今よりも余裕のある生活でした。
だけど、仕事はなかった。

わたしは芝居がしたかったんです。舞台に立ちたかった。
まだアイドルアイドルしていた時代です。

ふと、何かで目にしたオーディションに心躍りました。
彩の国さいたま芸術劇場新人発掘オーディション。演出、蜷川幸雄。

わたしはこうゆう場所で、演劇が演りたいんだと思っていたことが思い出されて、ふつふつと想いが溢れてました。

本当はダメです。わたし、社員ですから。暇でも勝手にバイトすらできないような立場です。舞台を勝手にやれはしないのですが、気づいたらエントリーシート送っていました。

書類が通りました。
さいたま芸術劇場に行き、ずら〜〜と並ぶ偉いのであろう人達の前でオーディションを受けました。目の前に、蜷川さんが居ました。

確か、剣を振りました。セリフも言いました。あまりに緊張して、剣を持つ手がガチガチ震えました。

あっという間に終わって、帰りたくなくて、何かが変わる、何かを変えるんだ、と意気込んでました。

結果は郵送でした。
結果が届くよりも前に、 社長から連絡がありました。


さかいー、今年事務所で作る舞台に出るだろ〜

と。…話す時がきました。
社長、ごめんなさい、それ出られない。社長、わたしそれまでに、事務所を辞めます。と。

即事務所に呼び出されました。

沢山沢山話し合いました。
わたしは本当に前事務所の事を好きだし、社長のことも好きだし、なによりただの小娘を全力でフォローして売ってくれた。感謝してもしきれない。
だけど、芝居がしたかった。ちゃんと実力を身につけなければ、仕事はこのままずっとないと思っていました。

うちの事務所にいても芝居は出来るだろ?と言われました。

わたし今、蜷川さんの芝居のオーディションを受けています。結果はまだですが、そうゆう芝居がしたい。と話したら社長はびっくりしていた。

受けてるの!?そんなに本気なの?そっか。うちで蜷川さんの芝居はムリだな、わかった。と。


そのあとすぐ結果は届きました。
落ちました。
自分でもびっくりするくらい、信じられないほどわんわん泣きました。落ちないと思っていたのか、理由もなく自信があったのか、何故かとにかく悔しくて、わんわん泣きました。

オーディションに落ちてあんなに泣いたのは後にも先にも今の所、あの時が一番です。だけど、改めて、やっぱり舞台がやりたかったんだな、とも気づきました。

そして、あの時、あのオーディションを受けていたから、わたしは事務所を辞めました。

それから沢山舞台に立ちました。
まだまっったく理想には届いていないけれど、だけど、着実に一歩ずつ、歩んでいます。
芝居を中心に、生きています。それは、幸せです。

今日、あの日のことを思い出して泣きました。
絶対にこの道の先にいて、いつかまた会えると思っていたのに。
心よりお悔やみ申し上げます。

やっぱり圧倒的な演出だったし、
魅力的な演者を生んでいて、
どうしたって憧れました。